観光列車
「観光列車」とは一般に、『旅行をするための移動手段として鉄道を利用するのではなく、鉄道に乗ること自体が旅行の目的となるような、通常の列車とは異なる魅力的な外観や内装をもつ列車のこと』(鉄道総合技術研究所「鉄道技術用語辞典」)、『内外装を凝らし、味覚を楽しみながら旅行ができるなど、乗ること自体を目的にした列車』(JTB総合研究所「観光データベース用語集」)などと説明されています。
1950年代から1960年代にかけて、沿線に海水浴場や有名観光地を持つ大手民鉄は、行き先のヘッドマークをつけた特別列車を運転したり、デラックスな特急列車を投入したりして、人々の旺盛なレジャー需要に応えてきました。しかし、高度経済成長期を迎えると、家庭旅行は自家用車に、団体やグループ旅行は観光バスに移行し、"移動手段としての観光列車"に対する需要は相対的に縮小しました。
観光列車が再び脚光を浴びるのは、シニア世代やインバウンドによって新しい観光マーケットが形成されはじめた2010年代からのことです。先行したのはJRや地方民鉄・第三セクター鉄道などで、新しい需要を創出するため、"列車そのものを観光資源化する試み"が各所で見られるようになりました。共通するビジネスモデルとしては、①既存車両をリニューアルすることでコストを抑える、②食事の提供やアテンダントによる観光案内など、新しいサービスを導入する、③沿線地域活性化を目指して地方自治体や地域産業とタイアップする、などがあげられます。
こうした市場の動きを捉えて大手民鉄の中にも"新しいタイプの観光列車"を投入する機運が高まり、2009年に運行を開始した南海の「天空」を皮切りに、今日まで次のような観光列車が登場しています。
〇東武:「SL大樹」 〇西武:「西武 旅するレストラン『52席の至福』」 〇伊豆急×東急:「THE ROYAL EXPRESS」 〇近鉄:「しまかぜ」、「青の交響曲(シンフォニー)」、 〇南海:「天空」「めでたいでんしゃ」 〇阪急:「京とれいん」、「京とれいん雅洛」 〇西鉄:「THE RAIL KITCHEN THIKUGO」など
このうち、「52席の至福」、「THE ROYAL EXPRESS」、「しまかぜ」、「青の交響曲」、「THE RAIL KITCHEN THIKUGO」は地元の食材を使った飲食サービスを提供しています。
一方、地方民鉄には、嵯峨野観光鉄道(トロッコ列車)、高尾登山電鉄(ケーブルカー)、箱根登山鉄道のように、専ら観光鉄道として事業を展開している会社も見られます。また、津軽鉄道のストーブ列車、大井川鐵道や秩父鉄道の蒸気機関車、小湊鐡道の里山トロッコ、叡山電鉄のひえい、和歌山電鐵のイチゴ列車、伊予鉄道の坊っちゃん列車など特別仕様の観光列車を運転して観光客を楽しませている事例も少なくありません。